2019年12月取材
リンパ腫の治療は、医師だけでなく、看護師や薬剤師ほか、さまざまな医療関連職がかかわる「チーム医療」で⾏われます。今回は、治療に取り組む患者さんの不安や疑問が少しでも解消されるように、チーム医療とはどのようなものか、医療スタッフとのかかわり⽅のヒントなどについて、医療法人社団春日会 理事長 兼 春日2丁目クリニック 院長 横⼭先⽣にお話をうかがいました。
横⼭先生(以下、敬称略) リンパ腫の治療におけるチーム医療では、医師、看護師、薬剤師、管理栄養⼠、メディカルソーシャルワーカーなどがチームとなり、連携して患者さんをサポートしています。
医師⼀⼈では、患者さんをトータルに、かつ、細やかにサポートすることは難しいこともあるため、チームによる医療が⼤切です。例えば、医師は病気のこと、治療のこと、今後のことなど、さまざまなことを説明しますが、診察時間は限られています。それを補うために看護師が、「医師の説明でわかりにくかったことはなかったか」「何かお困りのことはないか」などについてもう⼀度確認します。
また看護師は、⼊院中や通院治療中、患者さんにいちばん近い場所で体調の変化に⽬を配り、必要なケアをし、患者さんが医師には⾔いにくいけど気になることに気づき、上⼿く患者さんから聞き出す役割も担います。薬剤師は、病棟や外来で薬や治療による副作⽤についての説明や、その管理・ケアなどを⾏います。また、管理栄養⼠は病棟や外来で、患者さんの⾷事や栄養の管理を⾏います。相談⽀援センターなどに在籍するソーシャルワーカーは、経済的な問題や仕事の悩みなどを含め、治療中だけではなく、治療前後の患者さんの⽣活に関するさまざまな⽀援を⾏います。それぞれの専⾨職種が個別に対応し、チームとしてそれぞれの患者さんの情報を共有し、連携して、患者さんの要望にきめ細やかに応えていきます。
横⼭ 抗がん剤による治療中は副作⽤への対応が重要になります。当院では初回投与時は⼊院していただくようにしているのですが、同じ種類のリンパ腫で、同じ抗がん剤を使⽤しても、どのような副作⽤がどの程度の重さでみられ、どのような経過をたどるかは、⼈によってさまざまです。
例えば、吐き気が強く出る、熱が出るなどの副作⽤は、⾝体的につらいだけでなく、「これからどうなるのだろう」と精神的に不安になる患者さんもいらっしゃいます。そのようなとき、患者さんの状態をみている病棟の看護師と、患者さんが使⽤しているお薬を把握している薬剤師が相談しながら、吐き気が強い場合には制吐薬(吐き気⽌め)を調節するなどの対応をします。ご⾼齢の患者さんなどで副作⽤が起こりやすいことが想定される場合には予防的な治療を加えるなど、チームで毎⽇相談しながら、それぞれの患者さんに合う対応を考え、少しでもつらさや不安を軽減できるようサポートします。
また、患者さんの社会的背景は⼀⼈ひとり異なります。仕事をしながら治療をしている⽅、⼀⼈暮らしの⽅、サポートするご家族もご⾼齢の場合などさまざまです。そのため、例えば、治療と仕事の両⽴や就労⽀援のために、ソーシャルワーカーが企業と連携したり、退院後の⽣活⽀援のために、病棟看護師とソーシャルワーカー、地域とが連携したりと、⼀⼈ひとりの患者さんの治療と⽣活を⽀援するために必要な連携を図っています。
横⼭ リンパ腫の治療では、100⼈の患者さんがいれば、100通りの悩みがあります。患者さんが抱く不安や、その本当の気持ちは、患者さんご本⼈にしかわからないでしょう。しかし、少しでもその気持ちに寄り添い、不安を軽くするためにできる限りのことをしたいと、医療スタッフはチーム体制を組んでいます。
患者さんが抱く不安で、最も多いと感じるのは、「病気が治るのか、治らないのか」「この先どうなるのか」です。私は、その場合はまず、リンパ腫という病気の性質を説明し、理解していただくようにしています。
リンパ腫といってもその種類は70以上あり、タイプによって、治りやすいもの、治りにくいもの、ゆっくり進⾏するもの、早く進むものなど、それぞれ性質が異なります。そのため、患者さんのリンパ腫の種類によって、「このタイプはしっかり治療をすれば治ることが多いものですよ」「このタイプは完全に治すことは難しいですが、治療をすることで⽣活の質を維持しながら⽇常⽣活を送れることが多いですよ」など、丁寧に説明し、前向きに治療に取り組んでいただけることを⽬指しています。
もうひとつのリンパ腫の特徴として、若い⽅からご⾼齢の⽅まで、幅広い年齢層の⽅にみられる病気であることが挙げられます。AYA世代(15歳〜39歳)といわれる若年層の患者さんであれば、勉強や仕事との両⽴、脱⽑などによる外⾒の変化、妊娠・出産への影響、ご⾼齢の⽅であれば、認知機能の低下や独居、⽼⽼介護の問題など、年齢や社会・⽣活の背景などによって抱く不安は異なります。そのため、世代ごとの悩みや不安をチームで共有し、⼀⼈ひとりの患者さんに必要なサポートを考えています。
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 悪性リンパ腫総論」
平成27年-29年度厚生労働省科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)
「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」班 編:
医療従事者が知っておきたい AYA世代がんサポートガイド, 金原出版, p2, 2018
横⼭ 普段の診療では、残念ながら、⼀⼈ひとりの患者さんにそれほど多くの時間をお取りすることができません。そのため、患者さんのお話をゆっくり聞くことができないこともあります。また、患者さんにも、「こんなこと先⽣に聞いていいのかな」という迷いがある⽅や、悩みや要望があっても、なかなかそれを⼝に出せない⽅もいらっしゃるでしょう。
すっきりした気持ちで前向きに治療に取り組んでいただくためにも、我慢せずに悩みや要望を伝えていただけたらと思います。医師に話しにくければ、病棟や外来の看護師、薬剤師、医療相談室や相談⽀援センターなどにいるソーシャルワーカー、誰でもいいので、まずはあなたにとって話しやすそうな医療スタッフに、是⾮相談してみてください。とにかく、誰かに話していただけたら、そこから必要なサポートにつなげることができます。
横⼭ 医療スタッフは、できるだけ患者さんに不安なく治療に取り組んでいただけるよう、患者さんの気持ちに寄り添ったサポートをしたいと考えています。患者さんの⾔葉にできない思いを引き出せるよう、努⼒をしているつもりですが、⼗分にできていない場合もあるかもしれません。
患者さんも、不安や疑問などがあれば、どうか遠慮なく聞いてください。「限られた診察の時間内ではなかなか聞きにくい」「緊張してしまって思うように聞けない」という場合は、「聞きたいこと」「伝えたいこと」を事前に箇条書きにするなどして、メモを持参していただくことをおすすめします。
また、可能であれば、ご家族や親しい⽅など、どなたかと⼀緒に診察に来ていただけるとお互い安⼼です。治療や薬、⽣活上の注意なども、患者さんお⼀⼈で聞くのでは忘れてしまうこともあるかもしれません。患者さんにとって⾝近な⽅が⼀緒に聞いてくださることで、治療や⽣活をサポートする上でも有⽤となるでしょう。医療スタッフ、患者さん、ご家族や⾝近な⽅で情報を共有して、⼀緒に治療に取り組んでいけるといいですね。
多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。
質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。
リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。
治療中に生じる副作用について解説するとともに、患者さん自身でできる予防法、症状を和らげるための対策について詳しく解説します。
病気を取り巻く問題である仕事・治療費・暮らしに焦点をあてて、患者さんの生活の身の回りのアドバイスをします。
治療をスムーズに進めるためのポイントやヒントとなる情報をリンパ腫治療のエキスパートよりお伝えします。
ご家族のかたへ
監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長 兼 臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生
大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。