監修:
特定社会保険労務士
笠原 修一(かさはら しゅういち)先生
リンパ腫になると治療や療養のために仕事を休まなければならない場合や、一時的に仕事ができない場合があります。また、治療が終わっても、身体に障害が残ることにより、日常生活が困難になることがあります。ここでは、患者さんの状況に応じた給付サポートを紹介します。
傷病手当金
−病気のために働けない時の所得保障−
給与所得者が業務外の病気やけがにより、会社を休んだ日に直近12ヵ月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額が健康保険等から支給されます。国民健康保険加入者は対象外になります。
給付される4つの条件
(1)業務外の事由による病気やけがの療養のための休業であること
(2)仕事に就くことができないこと
(3)連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
例)
全国健康保険協会:病気やケガで会社を休んだとき
(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)
[2023年9月閲覧]より作図
(4)休業した期間について給与の支払いがないこと※
※ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。
給付額
欠勤4日目から1日(勤務先の所定休日含む)につき直近12ヵ月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2が支給されます。
給付期間
最長で1年6ヵ月。
健康保険の場合、病気が軽快し出勤でき、傷病手当金を受けない期間があっても、支給が開始された日から1年6ヵ月経過すると支給は終了になります。
厚生労働省:傷病手当金について
(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000619554.pdf)
[2023年9月閲覧]より作図
資格喪失後の継続給付
資格喪失の日の前日(退職日等)まで被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者資格喪失日の前日に、現に傷病手当金を受けているか、上記の受給条件を満たしていれば、資格喪失後も引き続き支給を受けることができます。ただし、いったん仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません。
全国健康保険協会:「病気やケガで会社を休んだとき」
(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)
[2023年9月閲覧]
申請窓口
勤務先経由で各健康保険者へ提出します。
詳細については加入している健康保険組合に直接確認してみましょう。
自分が加入している健康保険組合がわからない場合は健康保険証の「保険者名称」を確認してください。健康保険証を紛失された場合は、勤めている会社の総務・人事部の担当者に聞いてみましょう。
質問1
どんな場合に傷病手当金の支給が停止されますか?
傷病手当金が受給できない主なケースとして下記があげられます。
・給与等の支払いが傷病手当金の支給額より多いとき(少ない場合 はその差額が支給されます)
・障害厚生年金もしくは障害手当金を受けている場合
・老齢年金を受給している場合
・労災保険から休業補償給付を受けている場合
・出産手当金を受けている場合
このような場合は、がん診療連携拠点病院の患者支援センターや病院の患者相談室、ソーシャルワーカーさんに相談してみましょう。 また、社会保険労務士にご相談もできます。
質問2
国民健康保険に加入していますが、傷病手当金を受給できますか?
国民健康保険加入者は対象外になります。
全国健康保険協会:「病気やケガで会社を休んだとき」
(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)
[2023年9月閲覧]
全国健康保険協会:「窓口・申請書の提出などについて」
(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat610/r303/)
[2023年9月閲覧]
厚生労働省:傷病手当金について
(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000619554.pdf)
[2023年9月閲覧]
雇用保険(基本手当)
−失業中の生活の安定のための給付−
会社を退職し、失業したとき、生活と雇用の安定のために支給されます。
給付条件
(1)失業していること
(2)退職日以前の2年間に、賃金の支払いの基礎となった日が11日以上または賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上ある月(被保険者期間)が通算して12ヵ月以上あること
特定受給資格者・特定理由離職者(倒産や解雇、有期雇用契約の満了、正当な理由のある自己都合等により離職した方)は離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6ヵ月以上あること
*がんによる退職の場合、特定理由離職者に該当すると考えられますが、最終的な判断はハローワークが⾏います。
対象
雇用保険の被保険者
支給額
原則として退職前6ヵ月に支払われた賃金の1日当たりの金額の45%~80%が基本手当日額として支払われます。年齢によって異なります。
ハローワークインターネットサービス:「基本手当について」
(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html)
[2023年9月閲覧]より作成
*基本手当日額の詳細はこちら
年齢区分に応じた基本手当日額の上限額(2023年8月1日から)
離職時の年齢 | 基本手当日額の上限額(円) |
---|---|
29歳以下 | 6,945 |
30~44歳 | 7,715 |
45~59歳 | 8,490 |
60~64歳 | 7,294 |
基本手当日額の下限額(2023年8月1日から)
年齢 | 基本手当日額の下限額(円) |
---|---|
全年齢 | 2,196 |
*基本手当日額の下限額は、年齢の関係なく、2,196円になります。
ハローワークインターネットサービス:「基本手当について」
(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html)
[2023年9月閲覧]
給付日数
支給される日数
一般の離職者 | 90日~150日 |
就職困難者(障害者等) | 150日~360日 |
特定受給資格者・特定理由離職者 | 90日~330日 |
ハローワークインターネットサービス:「基本手当の所定給付日数」
(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html)
[2023年9月閲覧]より抜粋
*がんによる退職の場合、特定理由離職者に該当すると考えられますが、最終的な判断はハローワークが行います。
受給期間延長申請
病気により30日以上働けない時は、申請することにより、その日数分(最長4年以内まで)受給期間を延長することができます。つまり、働くことができる状態になるまで、受給を先送りすることができます。
申請は、治療や療養のために離職した日の31日目から延長後の受給期間最後の日まで可能です。本人が直接手続きをする以外にも、郵送や代理人による申請も認められています。
申請窓口
お住まいの管轄のハローワーク。
全国ハローワークの所在案内ページはこちら
質問1
傷病手当金と合わせて受給できますか?
一緒に受給することはできません。まずは、病気により働けない間(最長1年6ヵ月)は、傷病手当金を受給できます。その間、雇用保険の受給期間延長申請を行うとよいでしょう。仕事ができる状態になったら雇用保険を受給しながら就職活動をすることが可能です。
質問2
アルバイトの仕事を探していますが、受給できますか?
受給要件を満たしていれば、問題ありません。
ハローワークインターネットサービス(https://www.hellowork.mhlw.go.jp)[2023年9月閲覧]
障害年金
-病気やケガにより生活に制限を受ける場合の公的年金-
初診日から1年6ヵ月経過後の身体の状態が、日常生活に著しい制限を受けるなどの一定の障害の状態である場合に申請ができます。
受給資格
(1)初診日に被保険者であること
初診日に国民年金か厚生年金のどちらに加入していたかで、受け取る年金が
変わってきます。初診日に国民年金か厚生年金のいずれの公的年金に加入し
ていたかを確認しましょう。
(2)障害認定日または裁定請求日に障害の程度が等級に該当すること
原則的に初診日から1年6ヵ月たった日の障害の状態で、もらえる年金の等
級などが判断されます。
障害等級に関する詳細はこちら
(3)保険料の納付要件を満たしていること
①初診日がある月の前々月までの公的年金の加入期間
の3分の2以上、納付している(または免除されてい
る)こと
②初診日が65歳未満で、初診日のある月の前々月まで
の1年間に保険料の未納がないこと
質問
一定の障害の状態とはどのような状態ですか?
身体の状態が日常生活に著しい制限を受ける状態以外に、抗がん剤の副作用によるだるさやしびれ、痛みなどの症状が治療によるものであり、仕事に支障をきたすと認められれば該当することがあります。
受給額
受給できる障害年金の額は加入している年金制度、障害の等級と18歳未満の子どもの有無により異なります。
下記のように、障害基礎年金は障害の等級によって給付される額が異なり、また、年度によって基準となる金額が変動します。障害厚生年金は収入や厚生年金保険に加入していた期間などによって受給できる金額が変動します。
障害年金の給付額(2023年度)
障害基礎年金 (国民年金に加入している、 もしくは加入していた方) |
障害厚生年金*2 (厚生年金に加入している、 もしくは加入していた方) |
|
---|---|---|
1級*1 | 99万3,750 円 +子どもの加算*3 |
報酬比例の年金額*4×1.25 +配偶者の加給年金額*5 |
2級*1 | 79万5,000円 +子どもの加算*3 |
報酬比例の年金額*4 +配偶者の加給年金額*5 |
3級*1 | なし | 報酬比例の年金額*4 (最低保障額 59万6,300円) (昭和31年4月1日以前に生まれた方は59万4,500円) |
障害手当金*1 | なし | 報酬比例の年金額*4×2 (最低保障額 119万2,600円) (昭和31年4月1日以前に生まれた方は118万9,000円) |
*1 1級、2級、3級は一年間の給付額、障害手当金は一時金。
*2 1級と2級は、障害厚生年金と同時に障害基礎年金(子の加算を含む)を支給。
*3 子どもの加算は、第1、2子は各22万8,700円、第3子以降はひとりにつき7万6,200円。
*4 報酬比例の年金額は、年金計算の元になる標準報酬月額(在職中の平均的な給与)で、加入期間の月数と給与の 額によって決まる。計算方法の詳細はこちら
*5 配偶者の加給年金額は、22万8,700円。
日本年金機構:障害年金ガイド 令和5年度版
(https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-2.pdf)
[2023年9月閲覧]
申請窓口
- 初診日が厚生年金加入の場合
お近くの年金事務所または街角の年金相談センター
日本年金機構全国の相談・手続き窓口はこちら - 初診日が国民年金加入の場合
住所地の市区町村役場の窓口
※公務員の場合は各共済組合、私学共済の場合は私学事業団が申請窓口になります。
質問1
障害年金の支給判定に必要なものは何ですか?
主治医の診断書が必要になります。まずは、主治医の先生に障害年金を受けたい旨を伝えましょう。診断書に書いて欲しい内容を具体的に伝えるにあたり、事前にメモに書いて添付するとスムーズでしょう。がん治療による副作用の辛さは自分以外には伝わりにくいことがあります。何かわからないことがあれば、がん診療連携拠点病院の患者支援センターや病院の患者相談室、ソーシャルワーカーさんに相談してみましょう。また、障害年金の請求は社会保険労務士にご相談もできます。
質問2
子どもの加算がありますが、いつまでもらえるのですか?
子どもとは「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子ども」か「20歳未満で障害等級1級または2級の障害者」をさします。
質問3
一度申請したらずっと受給できるのですか?
認定には、永久認定と1~5年ごとの更新が必要な有期認定があります。更新の時期になると、医師の診断書欄のついた「障害状態確認届」が送付されますので、医師に診断書欄を記入してもらい、更新手続きをします。「障害状態確認届」や毎年必要な「現況届」を提出しないと支給が停止されますので、注意しましょう。
日本年金機構:障害年金ガイド 令和5年度版
(https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-2.pdf)
[2023年9月閲覧]
日本年金機構
(https://www.nenkin.go.jp/index.html)
[2023年9月閲覧]
日本私立学校振興・共済事業団:「障害厚生年金」
(https://www.pmac.shigaku.go.jp/annai/nenkin/gaiyo/gaiyo_02/detail/gaiyo_02_01.html)
[2023年9月閲覧]
全国社会保険労務士会連合会:「年金の相談をしたい」
(https://www.shakaihokenroumushi.jp/consult/tabid/217/Default.aspx)
[2023年9月閲覧]