吐きそう-吐き気・嘔吐-
独立行政法人 国立病院機構 仙台医療センター
臨床研究部長
和泉 透(いずみ とおる)先生
地方独立行政法人 栃木県立がんセンター
緩和ケアセンター
ジェネラルマネージャーがん化学療法看護認定看護師
吉川 直子(よしかわ なおこ)先生
リンパ腫の治療中に、空腹なのに料理を目の前にしても、吐きそうになって食べられなかったり、食べても吐いてしまうことがあります。吐き気や嘔吐は治療の早い時期からあらわれますが、長く続かないことが多いです。最近は、制吐薬(吐き気止め)が進歩しており症状をコントロールすることも可能になっています。吐き気や嘔吐によって水分や食事がとれないと体力が低下してしまいます。身の回りの衣食住を整えるなど吐き気を誘発しないケアを紹介しますので、無理なくできることから試してみましょう。
こんな症状があらわれます
ムカムカする
吐きそうになる
吐いた
(吐き気の後に胃の中の内容物が口から逆流して体外に吐き出される)
これらの症状は抗がん剤による治療開始後24時間以内にあらわれる急性のものと、それ以降にあらわれる遅延性のものなどがあります。
以下の症状が出たら、速やかに受診しましょう。
吐いたものに血が混じる
回数や量に関係なく、食事・水分がとれないときが2日以上続く
腹痛・お腹の張り・頭痛・発熱・脱力感が激しい
いつもより尿量が減った
日本がん看護学会 監:がん治療と食事 治療中の食べるよろこびを支える援助, 医学書院, p30-31, 2015
吐き気・嘔吐の原因
抗がん剤を使った化学療法や放射線治療によって、脳にある嘔吐中枢が刺激されて、吐き気を引き起こします。
日本がん看護学会 監:がん治療と食事 治療中の食べるよろこびを支える援助, 医学書院, p30, p35, 2015
吐き気・嘔吐のケア
日常生活や身の回りの環境を整えて、吐き気を誘発しないためのケアのポイントを「衣・食・住」に分けてご紹介します。
ポイント① 食べ方や料理などを工夫する
吐き気の後に嘔吐が起こりますので、吐き気を誘発しないように、食べやすいものを少しずつゆっくり食べましょう。食べられないときには無理をせず、食べられるときに少しずつ食べることで、1日に必要なエネルギ―や栄養をとることができます。食事の内容を変えることで症状が和らぐこともあります。
冷たく口あたりがよく、飲み込みやすい料理 |
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味付けはあまり薄くしないで、自分の好みのものに |
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| においの少ない料理 |
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| 刺激の少ない料理 |
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| 水分はこまめにとる |
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吐き気が出やすいだけでなく味覚障害もある方は、あまり冷やし過ぎると味を感じることができなくなるかもしれません。吐き気を誘発するような強いにおいが出なければ、人肌程度に温めてもよいでしょう。レモンなどのかんきつ類は、吐き気にも味覚障害にも役立ちます。また、口の中のにおいも吐き気を誘発するので、うがいや歯磨きで口の中を清潔に保ちましょう。うがいや歯磨きは口腔内乾燥症がある方にも効果的です。
時間にこだわらず食べたい時にいつでも摂れるパン、カステラ、クッキー、ゼリーなどを用意しておくのもよいでしょう。
ポイント② ゆったりした服装にする
服装は上下とも締め付けるタイプは避けてください。特にズボンはウエストがゴムになっているものではなく、ひもで調節できるもので、体調によってすぐにゆるめられるものを選びましょう。
ポイント③ リラックスする
普段からどんなリラックス方法が好きなのか、何をすると自分がリラックスできるのかを知っておくと、吐き気が出そうになっても深呼吸するなど落ち着いて行動することができます。
・室内の環境を整える
刺激的な香りの花を置かない、室内は静かに暗くし、窓を開けて空気を入れ替えましょう。
・趣味を楽しむ
好きな音楽を聴く、映画を観る、友人と話すなどゆったりと過ごしましょう。
・マッサージや指圧をする
足のマッサージやツボ押しなどで症状が軽くなることもあります。
吐き気が出たら
軽く目を閉じ深呼吸などをして気分を落ち着けましょう。
体を急に動かすと吐き気がより進んでしまうので、安静にしましょう。
横になる、胃に枕をおいて横ばいになる など 吐き気がおさまったら軽い歩行や散歩など気分転換をする
冷たい水でうがいをしてみましょう。
ふだんから口の中を清潔に保ち、嘔吐後もうがいをして口の中を常に清潔に保つ
レモン水や炭酸水でのうがいもさっぱりする
胃を低くして背中をさすってもらいましょう。
胃に氷のうなどを置き冷やすのもよいでしょう。
お薬の飲み方や制吐薬(吐き気止め)で工夫も
リンパ腫の抗がん剤で、飲み薬の場合、食後に服用することで症状が軽くなることがあります。吐き気が続くときは、医師に相談し1日で最も多い食事量の後に、多めのお水で飲むなど工夫をしてみてください。
また、抗がん剤の種類により、吐き気や嘔吐が誘発される可能性があるときは、予防的に制吐薬(吐き気止め)が処方されることもあります。まずは吐き気や嘔吐が誘発されるパターンを自分でも把握し、治療を継続しましょう。
吐き気を誘発しないような身の回りの衣食住のうち、食を中心にケア方法を紹介しました。これ以外にも生活のなかで、自分に合うケア方法が見つかったら積極的に取り入れていきましょう。
吐き気や嘔吐は一時的に起こることが多い副作用ですが、仕方がないと我慢することはありません。症状を和らげるためにさまざまな制吐薬(吐き気止め)がありますので、我慢せずに医師や薬剤師、看護師、栄養士に相談しましょう。