働いている方がリンパ腫と診断されたとき、多くの方が仕事を続けるか、やめるかの判断に悩みます。ここでは、仕事を継続する場合や、休職した後に復職する場合に必要な準備、職場との対話のポイントについて解説します。
2013年に行われた「がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査」によると、がんになった患者さんで会社に勤めている⽅の48%、⾃営業等の⽅の66%が仕事を続けている⼀⽅で、お勤めの⽅で休職・退職をした、または解雇されて仕事を続けられなくなった⽅は44%、⾃営業等の⽅においては休業中、従事していない、廃業された⽅または、代替わりした⽅が33%みられました。
患者さんは具体的にどのような悩みをかかえるのでしょうか。
たとえば・・・
・・・などがあげられます。
企業のがんに対する理解が不⾜している⼀⽅で、患者さんの多くは治療における仕事への影響が見通せないことや、がんになったことで偏見にさらされることを恐れたり、職場の仲間に迷惑をかけると考え、無理をしたり本当のことを言えずにいたりすることにより、困りごとを抱えがちです。 その中で思わぬ誤解を受け、つらさや苦しみを抱えていることが周囲に正しく伝わらず、結果として、職場との関係性が悪くなり、居づらくなってしまうという問題が起きています。
実際に、がんと診断された時点で仕事をしていた方を対象に実施したアンケート調査では、離職した方のうち「就労⽀援を必要とする離職」が19%を占めました。これは、環境が整っていれば継続できた可能性があることを意味しており、その離職理由としてもっとも多かったのが、復職後に職場との関係性が悪化したことでした。
対象:がんと診断された時点で仕事をしていた方(327名)
がんの治療法は日々進歩しており、かつては⼊院して治療しなければならなかったものが、通院で治療を行うことができるようになりました。また、副作用をコントロールする治療も進歩したことで、仕事をしながら治療を行うことができるようになり、いわゆる「がんとともに働く時代」になりました。
そのような中、国の対策として2012年には、がん患者さんの就労⽀援が重点的に取り組むべき課題のひとつに掲げられました。特に、がん患者さんに対する就労⽀援の⼤きな後押しになったのは、2016年に「がん対策基本法」の改正で、事業主の責務として①がん患者の雇⽤の継続等への配慮、②がん対策に協⼒するよう努⼒することが盛り込まれたことでした。このように、⽇本では今まさに、がんと共に働ける社会づくりが急ピッチで進められています。
職場で円滑な人間関係を保ち、体調を考慮しながら仕事を続けるためには、治療過程のなるべく早い段階から職場の人と情報を共有し、復職後にどんな働き方をしたいのか一緒に考えていくことが大切です。早い段階から対話を重ねることで、誤解や認識の違いによる関係性の悪化を防ぐ⼀助となるでしょう。しかしながら、病気や治療についてすべてを話す必要はありません。どのような制限があり、どのような配慮が得られれば働けるのかということに焦点を絞り、伝える内容を考えます。
体調の変化や通院などの理由で以前と同じような働き⽅を続けることは難しくても、どの程度なら出来そうか、どんな働き⽅をしたいのか、まずは⾃分⾃⾝で整理してみましょう。そして、職場に相談する際は、最初に「復職を⽬指している」という意思をはっきりと伝え、職場と復職に向けての話し合いの場を設けたうえで、適切な配慮が得られるように情報共有していくことを⼼がけましょう。
休職前から復職後までの職場とのやりとりについて、特にポイントとなる点を以下にまとめました。
リンパ腫の治療と仕事を両立するために、公的な支援制度(高額療養費制度や傷病手当金など)と合わせて、社内で利用できる制度をうまく活用しましょう。職場によっては、休職や復職について独自の就業規則を設けていたり、運用上の工夫で柔軟に対応してくれたりする場合があります。
たとえば、放射線療法 で毎日短時間の通院が必要になったとき、時間単位での有給休暇取得や時差出勤の制度があれば、丸⼀⽇休むことなく治療を受けることができるかもしれません。
※職場により名称や内容、利用できる条件等が異なりますので、事前に確認しておきましょう
休暇・休職制度 | 有給休暇、傷病(病気)休暇、休職制度 など |
変則勤務制度 | 短時間勤務、時差出勤、フレックスタイム、在宅勤務、テレワークなど |
団体保険など | 企業が団体で加入するがん保険、医療保険、団体長期障害所得補償保険(GLTD)など |
仕事に関して相談できる窓口は多岐にわたります。相談内容に応じて以下のような相談先がありますので、困ったことがあれば、ぜひ問い合わせてみましょう。
相談先 | 相談内容の種類 |
主治医 | 治療の見通しや仕事への影響を相談することができます。また、復職にあたって職場にどのようなことを配慮してもらうべきかを「復職診断書」に記載してもらうことができます。 |
がん相談⽀援 センター |
全国の「がん診療連携拠点病院」や「小児がん拠点病院」、「地域がん診療病院」に設置されているがんに関する相談の窓口です。仕事以外にも多岐にわたる相談が可能です。 |
産業医 ※1 上ツキ・産業保健師 ※2上ツキ | 産業医や産業保健師は職場に常駐、もしくは嘱託で職場の労働環境を改善するために指導助言を行っています。 |
地域産業保健センターの地域窓口 | 産業医や産業保健師がいない場合には、各地域産業保健センターへ相談することができます。 |
労働基準監督署などの総合労働相談コーナー | 主に職場のトラブルに関する相談や、解決のための情報提供などの労働問題を取扱います。 |
※1産業医:企業などにおいて、労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるように指導・助言を行う医師。
※2産業保健師:企業等に勤務する保健師。産業医と同様に従業員の健康管理に従事する。
リンパ腫の患者さんの病状は一人ひとり異なり、抱えている困りごともさまざまです。悩みや不安を誰に・どのように相談してよいのか分からずに、ひとりでつらい思いをしている方もいることと思います。 そんな方はまず、通院している医療機関内にあるがん相談支援センターの相談員に会ってみることから始めましょう。最初は何も分からない状態のままで構いません。さまざまな相談に対応してきた経験豊富な相談員が、個々の患者さんに合わせて必要なところへとつないでくれます。
「リンパ腫とともに働く」という人生の新たな局面を迎えている今のあなたが、これからも希望を持って生きていけるよう、相談員も一緒に考え、できる限りのサポートをしていきます。
2023年9月現在の情報を元に作成
仕事・治療費・暮らし
多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。
質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。
リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。
治療中に生じる副作用について解説するとともに、患者さん自身でできる予防法、症状を和らげるための対策について詳しく解説します。
病気を取り巻く問題である仕事・治療費・暮らしに焦点をあてて、患者さんの生活の身の回りのアドバイスをします。
治療をスムーズに進めるためのポイントやヒントとなる情報をリンパ腫治療のエキスパートよりお伝えします。
ご家族のかたへ
監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長 兼 臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生
大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。
休職する上で必要な情報(書類)を準備する
休職するときには、主治医が書いた「病気休業診断書」を職場に提出する必要があります。診断書の提出先は職場によって上司、⼈事、産業医※1などさまざまです。
また、治療計画を主治医に確認し、現段階において仕事に影響しそうなことやその期間の⾒通しを職場と情報共有しておくことも⼤切です。診断直後は、⾃分⾃⾝では⼗分に状況を把握できなかったり、今後の治療が⾒通せなかったりする場合もあるかもしれません。そのような場合、治療の状況や就業継続の可否などについては、「主治医の意⾒書(診断書と兼⽤)」を作成してもらうことができます。
利用できる制度を確認する
会社の就業規則や休職に関する制度を⼈事などに確認しておきましょう。復職後の通院で必要となる年次有給休暇を残しておくために、どの制度を先に活⽤するのがよいかなども把握しておくことをお勧めします。休職中の給与の扱いや健康保険組合の傷病⼿当⾦はいくらか、いつまでもらえるのか、社会保険料はどのように⽀払うのかなど、お⾦の⾯も具体的に確認しておきましょう。
周囲に伝える範囲を決めておく
休職するにあたり、職場の上司や同僚に「何を・どこまで・どのように」伝えるか、職場と話し合っておきましょう。⽇頃⼀緒に仕事をする仲間が突然出社しなくなれば、やはり周囲の⼈は何があったのか気になります。意に反した形で噂話として広がることを避け、休職中の仕事のフォローや復職後の配慮を得るためにも周囲に納得してもらうことは⼤切です。復職時には改めてその後の働き⽅に応じた情報の共有の仕⽅を話し合うようにしましょう。
休職中は定期的に連絡する
休職中も定期的に職場と連絡をとって、治療経過を共有したり、治療⽅針の変更などによって⽣じる仕事への影響について相談したりしましょう。復職間際になって配置転換や⼤きな業務量の変更を伴うような配慮が必要だということを伝えても、職場は対応が困難であることも多く、それが復職を妨げる原因になってしまうこともあります。
復職に向けて⾃分の要望を伝える
治療を終えた後、もしくは治療が⼀段落して復職を希望する際には、⾃分の体調が仕事をするのに問題なく回復していること、また、以前と同じような働き⽅を続けることは難しくても、どの程度なら出来そうか、どんな働き⽅をしたいのかを職場に伝えることが⼤切です。復職にあたって主治医に復職の希望を伝え、仕事ができる状態に体調が回復していると判断されれば「復職診断書」を書いてもらうことができますが、その中に職場で必要な配慮についても記載してもらうことができます。こうすることで、的確かつ円滑に⾃分の要望を職場に伝えることができるので、ぜひ主治医に相談してみましょう。
復職してからも定期的に職場と話し合う
職場に復帰して、いざ業務が始まってみると、事前に想定していなかった悩みや困りごとに直面するかもしれません。遠慮して自分からは言い出しにくかったり、あるいは聞く側も多忙な中で負担に感じたりすることもあるでしょう。体調の変化や困りごとが伝わらないことにより職場との関係性が悪化する恐れについては、既に説明したとおりです。職場の復職支援担当者(あるいは直属の上司など)からのヒアリングを定例化してもらうことで、困りごとを口にしやすくなり、会社側も状況に応じた対処がしやすくなります。復職時にあらかじめ、週に一回、10分でいいので時間をとってもらえるよう提案することをお勧めします。
(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001088186.pdf)
[2023年9月閲覧]