リンパ腫にはたくさんの種類があり、治療方針は病気や患者さんの特性、要望などを考慮して決められるため、患者さんごとにより良い治療法が異なります。では、いくつかの選択肢の中から自分にふさわしい治療法を選ぶ場合、考慮すべきポイントは何でしょうか。今回は、独立行政法人国立病院機構名古屋医療センターの先生方に、治療法を決める、あるいは納得して治療を始めるために重要なことについて、医師、看護師のお立場からお話をうかがいました。
永井先生(以下、敬称略) リンパ腫は70以上の診断名があるので、まずどのようなタイプかを考慮して、標準治療が確立しているタイプでは標準治療を説明します。標準治療が確立していないタイプや、標準治療はあっても病歴や体力、副作用などのいろいろな理由で標準治療が行えない場合は、標準治療をベースに今のエビデンスの中で最も良いと思われる複数の治療法をお話しし、患者さんと相談しながら決めていきます。
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 悪性リンパ腫総論」
永井 「こういう治療法や選択肢があります」とお話ししても、「すぐには決められない」という方は多いです。おそらく、選択した治療法を受けてどういう状態になりたいのか、何を治療の目標やゴールとしたら良いのかを考えにくいことが理由のひとつだと思います。
治療の目標やゴールは、リンパ腫の症状が抑えられることはもちろんですが、それ以外のこと、例えば「子供や孫の入学式、卒業式までには退院したい」とか「孫が生まれるまでには治療を終えたい」といったようなことを目標にしても良いと思います。そうすると「こういう風にしたい」「こういうことは避けたい」という要望を医師に伝えることができますし、「いついつまでは頑張ろう」と前向きに治療に取り組むこともできます。ですので、まずは何か具体的な目標やゴールを決めると良いと思います。ただ、医師にはなかなか言い出せないかもしれませんので、そういう時は是非、看護師や他のスタッフに伝えていただければと思います。
豊田先生(以下、敬称略) そういうときは、「治療中や治療後にどういう生活を送りたいか」を考えると良いと思います。今までどのような暮らしをしてきたかという「生活史」を振り返ってみて、例えば旅行が好きでよく皆で出かけていた、最近はあまり行っていなかった、という場合は「来年の春に家族や友人と旅行に行く」といったことを目標に選んではいかがでしょうか。
吉田先生(以下、敬称略) 別の言い方をすると、自分自身が何を大切にしているか、どういうライフスタイルを望んでいるかを考えるということですね。例えば「仕事に差し障りがあるので脱毛はどうしても避けたい」「育児や介護に影響がでないようにしたい」「仕事への影響が少ない通院スケジュールを組みたい」「遠方から通うのが辛いので少しでも楽なスケジュールの方が良い」といったことです。最適な治療法というのは患者さんごとに異なるので、治療中や治療後に許容できること、できないことを具体的に伝えていただければ、われわれスタッフからもアドバイスができるようになります。治療が長くなればなるほど、患者さんとのコミュニケーションも増えて、一緒に目標を見つけるようなこともあります。
豊田 ライフスタイルを考えるときに覚えておいていただきたいのは、趣味をあきらめたり、我慢することはないということです。治療中はどうしても禁止事項が多くなりがちですが、何もかもが出来ないというわけではありません。禁止することで目標や楽しみが失われてしまうよりも、発散して治療を続けていただくことのほうが大事なのです。ただし、外出の際には「マスクをする」「手洗いやうがいをする」など感染症の予防策を徹底していただいたり、病院の連絡先を把握していただくようお願いしています。 また、仕事をあきらめる必要もありません。今は治療を続けながら働いている方もいますし、就労についての相談を受け付けている相談支援センターもあります。ですので、「趣味や仕事を続けることができる」といった点も、治療法を決める判断基準のひとつになるのではないかと思います。
永井 納得した状態で治療を開始できるように、疑問や不安、問題となる点がないかを整理することでしょう。例えばがんという病気自体を受け入れられないのか、抗がん剤治療の内容に疑問があるのか、あるいは体力的に治療が続かないのではという不安なのか、といったことですね。
豊田 インフォームドコンセントを受けた直後は、患者さんご本人もご家族も理解が追い付いていない状態なので、整理するといってもすぐには出来ないかもしれません。説明を聞いてわかったような気持ちでいても、把握している内容がご家族の中でも違っていたということも多いことでしょう。そこでまずは、これから受ける治療法についてご自身の言葉で説明できるかどうか考えてみると良いと思います。
また、入院中は看護師が近くにいますので、先生の説明の後に分からなかった場合は遠慮なく相談してみてください。
吉田 説明内容をご家族などと確認しあうのも良いでしょう。そうすることで、例えば「吐き気が起きるという説明があったのでは?」と思い出し、「吐き気はいつ出るのだろう?」「通院の後、外出や通勤は問題ない?」などと疑問点がまとまったら、次の診察などで質問してみる。これを繰り返すと良いのではないでしょうか。
多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。
質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。
リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。
治療中に生じる副作用について解説するとともに、患者さん自身でできる予防法、症状を和らげるための対策について詳しく解説します。
病気を取り巻く問題である仕事・治療費・暮らしに焦点をあてて、患者さんの生活の身の回りのアドバイスをします。
治療をスムーズに進めるためのポイントやヒントとなる情報をリンパ腫治療のエキスパートよりお伝えします。
ご家族のかたへ
監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長 兼 臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生
大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。
当院では最初に入院治療、その後に外来での治療を行うことが多いのですが、退院直前に外来化学療法室の見学を行っています。患者さんご本人だけではなくご家族も一緒にご案内し、「採血はこちらで行います」「治療を受けるベッドはこちらです」というように説明しています。外来通院の具体的なイメージをつかむヒントになることもあるのでないかと思います。機会があれば、採血や点滴を受ける場所について、スタッフに質問してみると良いかもしれません。