監修:
独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター 副院長
永井 宏和(ながい ひろかず)先生
FLでは放射線治療や抗
がん剤治療を行います
初めてFLと診断された場合は(初発)、そのときの病気の状態を限局期と進行期に分けて治療を進めます。
限局期の場合
限局期では、放射線療法で治癒が期待できる場合もあり、放射線治療を行うことがあります。ただし、放射線治療ができない場合(首やお腹などの病変で治療効果よりも副作用が心配される場合など)は、進行期と同様の治療も考慮されます。
進行期の場合
進行期では、リンパ腫細胞の量(腫瘍量)や症状などにより、治療方針が異なります。
リンパ腫による症状がないなど腫瘍量が少ない(低腫瘍量)と考えられる場合は経過観察とし、病気の進行度を慎重にみながら治療開始を考慮することがあります。
一方、リンパ腫による症状があるなど腫瘍量が多い(高腫瘍量)と判断された場合や進行速度が比較的速い場合、全身症状や合併症がある場合は治療を開始します。一般的には、抗CD20抗体と化学療法を組み合わせた併用療法が行われます。治療効果が得られた場合は、さらにがん細胞を減らして再発のリスクを減らすため、抗CD20抗体を継続的に投与することがあります(維持療法)。
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023,
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫
悪性リンパ腫総論」
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 1 濾胞性リンパ腫」
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023,
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 1
濾胞性リンパ腫」
治療後に再発した場合
再発とは、治療によりがんがほぼ消えたり小さくなったりした後に、再び活動性が生じることです。再発の場合も初発と同様に、限局期と進行期に分けて治療を進めます。治療にはさまざまな選択肢がありますが、どの治療法を最初に選択すると効果が高いかは明確ではなく、患者さんの状態に合わせて治療を検討します。
造血幹細胞移植は初発ではほとんど行われませんが、再発の進行期では治療の選択肢のひとつであり、主に抗がん剤治療の後に行われます。
また、新しい薬の開発をはじめ、今後の治療の改善に向けたさまざまな検討がなされています。臨床試験に参加するのも選択肢のひとつです。
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 1
濾胞性リンパ腫」
①放射線治療・放射免疫療法
放射線治療は、身体の外からがんがある部位に放射線をあて、DNAを傷つけることによりがん細胞を破壊する治療法です。がんの広がりが限局している場合に効果的です。
初発の限局期FLに対しては、放射線治療を局所的に行うことが推奨され、治癒が得られることもあります。放射線治療は再発時も選択肢のひとつになっており、病変が限局的な場合に選択されます。
飛内賢正 監:血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 講談社, p34, 2015 より作成
放射線照射の頻度や回数は病気の状態によって異なりますが、外来で治療可能な場合が多く、1ヶ月程度の通院となります。副作用としては、疲労感や皮膚の症状などがあらわれる場合があります。
放射免疫療法
再発時には限局期/進行期に関わらず、放射免疫療法が行われることがあります。リンパ腫細胞の表面にあるタンパク質を識別して結合する抗体に、放射線を放出する元素(放射性同位元素)を結合した薬剤を注射します。これにより、リンパ腫細胞に効果的に放射線をあてることができます。
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 1 濾胞性リンパ腫」,
神田善伸 監:ウルトラ図解 血液がん, 法研, p126, 2020を参考
②FLで行われる抗がん剤治療
FLは抗CD20抗体の登場により予後が改善しています。抗CD20抗体とは、がん細胞がもつ特定のタンパク質に結合する薬です。抗CD20抗体は現在のFL治療で標準的に用いられ、単剤あるいは化学療法との併用で投与します。
抗CD20抗体単剤療法
進行期FLで低腫瘍量かつ無症状の場合、抗CD20抗体の単剤療法を選択することがあります。
抗CD20抗体併用化学療法
進行期FLの患者さんで高腫瘍量だったり全身症状がある場合は、抗CD20抗体と化学療法を組み合わせた治療を行います。
組み合わせる化学療法は複数ありますが、治療の強さや副作用などを考慮して決定します。抗CD20抗体とアルキル化剤やステロイド薬などの抗がん剤を組み合わせた療法や免疫調節薬と組み合わせた治療法などが用いられます。
抗がん剤治療はがん細胞を減らすために実施しますが、正常な血液細胞も一時的に減少します。このような副作用を骨髄抑制 といいます。骨髄抑制が生じると、白血球の減少で感染症にかかりやすくなったり、血小板の減少で出血しやすくなります。
副作用が発現するかどうか、またその強さやあらわれる時期は、患者さんによって異なります。抗がん剤治療を行う際には、副作用に対する予防や治療を並行して行います。
③CAR-T細胞療法
CAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体発現T細胞輸注療法)は患者さんの免疫細胞の一種であるT細胞をとり出し、がんを攻撃する能力を高めるように遺伝子操作して体内にもどすがん免疫療法のひとつです。
FLでは複数の化学療法を行っても病気が進行した場合に、CD19を標的にしたCAR-T細胞療法が行われることがあります。CAR-T細胞療法では、サイトカイン放出症候群や神経毒性といった特徴的な副作用がみとめられる場合があります。
サイトカイン放出症候群は治療初期に発熱、低血圧や様々な神経症状を引き起こし、ときにサイトカインストームという重篤な反応から多臓器不全に陥ることが報告されています。
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫
Ⅱリンパ腫 1 濾胞性リンパ腫」
日本臨床腫瘍学会 編:がん免疫療法ガイドライン 第3版,2023
再生医療学会:再生医療ポータル
https://saiseiiryo.jp/keywords/detail/car-t.html
[2023年9月閲覧]
木崎昌弘 監:よくわかる がん治療 血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫,
主婦の友社, p47-48, p53, 2020
Colombat P et al.: Ann Oncol. 23: 2380-2385, 2012
進行期のFLでも治療を行わなくてよいのでしょうか?
FLでは進行期でもすぐに治療を開始しない場合があります。これは、過去の研究で、全身症状がなく大きな病変がない患者さんでは、治療を行わず経過観察を行っても早期に治療を開始した場合と比べて予後が悪くなかったという報告があるためで、一般的に治療選択肢のひとつと考えられています。
ただし、いつ治療を開始するかは重要です。治療開始の判断には統一された決まりはありませんが、いくつかの規準があり、それらを参考にして患者さん一人ひとりの状態をみながら考慮します。代表的な規準であるGELF規準では、以下のいずれかに該当する場合は高腫瘍量とみなし、治療開始の目安とされます。
リンパ腫なのに治療を開始しないと、不安に思う患者さんもいるかもしれません。納得して病気と向き合っていけるよう、主治医とよく相談して治療方針を決め、定期的な通院と経過観察をしっかり行いましょう。
独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター
副院長
永井 宏和先生