リンパ腫の治療を行っていくうえで、おなかの調子が悪くなり、下痢や便秘になることがあります。下痢や便秘がおこると、おなかが痛くなったりトイレに行く回数が増えるなど、日常生活に影響を及ぼします。お薬による対処だけでなく、患者さん自身でのケアで症状が和らぐこともあります。症状をできるだけ軽減するために日常生活での工夫を紹介しますので、無理なくできることから試してみましょう。
三嶋秀行 監:そのまま使える がん化学療法 患者説明ガイド, メディカ出版, p108, 2015
抗がん剤のはたらきによって腸の運動が活発になり、腸内の水分が十分に吸収される前に排泄されるためにおこるもの(早発性下痢)や、腸の粘膜が傷付けられることによりおこるもの(遅発性下痢)があります。
抗がん剤投与後に激しい下痢を経験すると、また繰り返すのではないかと不安になります。そのストレスで腸の粘膜が過敏になり、腸内の水分を吸収するはたらきが悪くなることにより下痢をおこすことがあります。
便意を感じたら、我慢せずにトイレに行きましょう。抗がん剤のはたらきで腸が活発に動いているときには下痢が何時間も続くことがあります。一方で抗がん剤投与から数日後におこる下痢に対しては、あらかじめ主治医より下痢止めのお薬が処方されることがあります。服用するタイミングについては主治医や看護師、薬剤師などに確認しておきましょう。
三嶋秀行 監:そのまま使える がん化学療法 患者説明ガイド, メディカ出版, p106-110, 2015
岡元るみ子ほか 編:改訂版 がん化学療法副作用対策ハンドブック 第3版,羊土社,p93-101,2019
下痢の際には便とともに大量の水分がからだの外に出ていくため、からだの中の水分量が減り、脱水症状をおこすことがあります。脱水症状にならないためにも水分補給が大切です。胃腸に負担をかけないように常温に近い温度で、1 回に一口か二口くらいずつ、1 日10 回を目安にこまめに水分補給をしましょう。また、食べ物からも水分を摂取することができます。白米や麺類などの炭水化物や野菜、乳製品などには水分が多く含まれます。失われた水分やからだをつくるのに必要な電解質をとりいれることができます。無理のない範囲で食べられるものを口に入れてみましょう。
一般社団法人 日本がん看護学会 監:病態・治療をふまえた がん患者の排便ケア, 医学書院, p163, 2016
国立がん研究センター内科レジデント 編:がん診療レジデントマニュアル 第7版, 医学書院, p420, 2016
下痢などによって便とともにからだの中の水分が失われてしまいます。それを補うために水分補給が必要ですが、その際にはナトリウムやカリウムなどの電解質が入ったイオン飲料を摂取することをおすすめします。体液と同じ浸透圧に調整されているため、すばやくからだに吸収されます。しかし、市販のイオン飲料には糖分も多く含まれるため、摂取のしすぎには注意が必要です。
下痢のときは、おなかが痛くなることがあります。その際には無理をせず、横になり楽な体勢でからだに負担をかけないようにしましょう。おなかが冷えないように腹巻・カイロなどで温めるのも効果があります。
下痢を何度もおこすと、トイレットペーパーなどで拭いたり、温水洗浄便座で洗ったりすることが多くなり、おしりに負担をかけることになります。おしりの穴を何度も刺激することで炎症をおこすことがあります。 特におしりの穴の周りは腸の粘膜との境目ですのでクリームなどで保護することが重要です。ケアの方法などでわからないことがあれば、主治医や看護師に相談しましょう。
抗がん剤を投与することにより自律神経のバランスが乱れて便秘をおこすことがあります。
また、吐き気止め、医療用麻薬、一部の抗うつ薬などは腸の動きをおさえるため、便秘になりやすくなります。
がんを発症し、抗がん剤などで治療を行っていくことは、患者さんのからだにもこころにも負担となります。ストレスがたまることで自律神経のバランスが乱れ、便秘になることがあります。
抗がん剤などの治療中は、からだを動かすことが難しくなります。からだを動かさないことによって腸の動きが鈍くなり、便秘になることがあります。
治療による吐き気や食欲不振により、食物や水分がとりにくくなることによって便秘になることがあります。
日ごろの食事にお汁物や果物を加え、積極的に水分をとりましょう。便が固くなりやすい食品(白米、白パン、おもち、うどんなど)はとりすぎないように注意しましょう。
豆類、きのこ、海藻など食物繊維の多い食品がおすすめです。また、ヨーグルト、漬物、納豆などの発酵食品も良いとされています。
厚生労働省:e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html)
[2024年3月閲覧]、
厚生労働省:e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html)
[2024年3月閲覧]より作成
からだを動かすことで、腸の動きも活発になるといわれています。日ごろから無理のない範囲で、散歩や軽い体操などでからだを動かすことを心がけましょう。体調の良いときは1 日30 分前後、からだを動かすことを目標としましょう。
便意があるにもかかわらず我慢を繰り返すと便秘になりやすくなります。便意を感じたらトイレに行くようにしましょう。
朝食の後などに、落ち着いてトイレに座る習慣をつけましょう。便意がなくてもトイレに行くことで排便があることもあります。
入浴や腹巻・カイロなどで、おなかを温めることで腸の運動が改善し、便を排泄しやすくなります。
また、おへその周りを時計回りに、手で「の」の字をかくようにゆっくりマッサージすることで、からだの外から腸を動かしてあげましょう。
からだの右側を下にして横になる。
左手を使っておへそを中心に、大腸にたまったガスを移動させるイメージで、「の」の字をかくように時計回りにゆっくりマッサージをする。
三嶋秀行 監:そのまま使える がん化学療法 患者説明ガイド, メディカ出版, p113, 2015
まずは毎日の排便の様子(回数、硬さ、量など)を観察・記録し、自分の便の状態を把握しましょう。
便の形は以下の表を参考にすると良いでしょう。
O’Donnell LJ et al. BMJ. 1990; 300: 439-440.より作成
下痢や便秘は日常生活の工夫で症状を軽減できることがあります。しかし、抗がん剤治療などで吐き気や食欲不振などが強いとき、まただるさが強いときなどは無理をせず、できるケアから行うことが大切です。また、下痢止めや緩下剤などのお薬を併用したほうが良い場合もありますので、むりをせず主治医や看護師、薬剤師に相談しましょう。
多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。
質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。
リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。
治療中に生じる副作用について解説するとともに、患者さん自身でできる予防法、症状を和らげるための対策について詳しく解説します。
病気を取り巻く問題である仕事・治療費・暮らしに焦点をあてて、患者さんの生活の身の回りのアドバイスをします。
治療をスムーズに進めるためのポイントやヒントとなる情報をリンパ腫治療のエキスパートよりお伝えします。
ご家族のかたへ
監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長 兼 臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生
大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。
下痢・便秘は非常に体力を消耗します。日常生活において食事をバランスよくとり、からだをできる範囲で動かして気分転換やリラックスすることが大切です。疲れが溜まると胃腸の調子が乱れるので、休養と睡眠時間を十分とりましょう。症状がつらいと感じた場合はすみやかに主治医に相談してください。