リンパ腫の治療中に抗がん剤による皮膚や爪のトラブルがあらわれることがあります。これは治療期間を通して多くの患者さんにみられますが、治療終了後は徐々に回復していくことがほとんどです。 皮膚障害には、痛みやかゆみを伴うことが多く、身体的につらいのはもちろんのこと、見た目の変化から心の負担を感じることもあると思います。 早めに対処することで、症状をうまくコントロールすることもできますので、医療スタッフと相談しながら、必要なケアを取り入れていきましょう。 日常的なお肌のお手入れ(スキンケア)で皮膚の防御(バリア)機能が良好な状態を維持することができます。スキンケア法や日常使っているものを見直して、皮膚や爪の症状が悪化しないように意識しながら実践してみましょう。
皮膚障害は症状によってあらわれる時期が異なります。ぶつぶつなどは治療を始めて1週間ほどでみられ、2~3週間でピークを迎えることが多いです。皮膚の乾燥は3~5週間ほど、爪の症状は7~8週間ほどでみられることが多いですが、症状のあらわれ方には個人差があります。 抗がん剤によっては効果と皮膚障害のあらわれ方に関係があり、お薬が効きやすい患者さんに皮膚の症状がでやすい場合もあります。皮膚障害と付き合いながら、少しでも快適に過ごすために基本的なスキンケアなどを取り入れてみましょう。国立がん研究センター看護部 編:国立がん研究センターに学ぶがん薬物療法看護スキルアップ, 南江堂, p142, 2018
皮膚障害を悪化させないために基本的なスキンケア方法のポイントをご紹介します。普段からスキンケアの習慣がない方は、医師や看護師などに相談し、やりやすいことからやってみましょう。
1日1回は身体を洗うようにしましょう。浴槽につかれないときは、シャワーだけでもかまいませんが、熱いお湯(40度以上)は避けてください。身体を洗うときは、刺激の少ない弱酸性の洗浄剤を選び、よく泡立てて使ってください。ナイロン製タオルでゴシゴシ洗わず、泡で汚れを包み込んで落とすイメージで洗い落とすとよいでしょう。
リンパ腫の治療中は免疫力が低下しており、特に足の爪は細菌が繁殖しやすいところなので、1本ずつ丁寧に洗いましょう。
十分な量の保湿薬や市販の保湿クリームなどをこまめにつけて、肌が乾燥しないようにしましょう。シャワーや入浴、手洗いや水仕事のあとも保湿を心掛けてください。寝る前に十分量の保湿薬をつけ、手袋や靴下をして寝るとよいでしょう。
電気毛布やこたつなどは、肌に直接触れて暖を取ることができますが、同時に乾燥を助長します。使用する際には乾燥に気をつけましょう。
また、室内の湿度にも注意して、加湿器などを活用して乾燥しないように気をつけてください。
保清と保湿は一連の流れで実践するとよいでしょう。例えば入浴の際は、皮脂を守るためにぬるめのお湯を使い、石けん成分は残らないように洗い流し、入浴後はこすらずに優しくおさえるように水気を拭き取ります。その後、すぐに(15分以内に)保湿薬を塗ります。どの保湿薬をどのように使うかは医師、薬剤師の指示に従ってください。ヘパリン類似物質製剤(軟膏、クリーム、ローション、泡状スプレー)がよく処方されます。1日2~3回塗って症状が出る前に予防的に使用するとよいでしょう。
皮膚障害は症状によりあらわれる時期が異なります。個人差があるので、いつ、どのような症状が出やすいかを知るために、皮膚をよく観察することが大切です。早めに対処して、症状をコントロールしていくためにも日々のこまめな観察を心がけましょう。
また、リンパ腫のタイプによっては、リンパ腫そのものが皮膚にできることがあります。皮膚にできた場合には、皮膚が赤くなったりぶつぶつやしこりが出たりするなどの症状がみられますが、治療に伴う症状(副作用)と見分けがつかないことがほとんどです。原因がわからない皮膚の異常が続く場合には、医師に相談しましょう。
ステロイド外用剤に対して、副作用が強いといった怖いイメージをお持ちの方がいらっしゃると思います。ステロイド外用剤は正しい使い方をすれば、皮膚障害の改善が得られるお薬です。いたずらに怖がらず、ステロイドの正しい知識を知り、医師、薬剤師と相談しながら上手に使用するようにしましょう。ステロイドの主な作用は「炎症を抑える」ことです。皮膚の赤みやぶつぶつ、かゆみなどの症状を鎮めるとされています。 病院でもらった外用剤は、患者さんの症状に合わせて医師が処方したものですので、指示にしたがって、きちんと使用しましょう。 以下に、ステロイド外用剤を塗布する際のポイントをまとめましたので参考にしてください。 ●顔や身体、手指を洗い、清潔な状態で塗布する ●ステロイド外用剤は、赤みやぶつぶつがあるところに、薄くのばす ●保湿剤を一緒に使う場合には、はじめに保湿剤、つぎにステロイド外用剤を塗布する
爪に症状があらわれ、手足の感覚が鈍くなると、日常生活に支障をきたすようになります。特に足の爪の場合には転倒しやすくなるなど危険を伴うことがあります。 爪が弱くなっている場合は、爪切りではなく爪専用のやすりを用いる、締め付けない靴を選ぶなど工夫が必要です。また、爪のベースコートなどを用いると爪を保護することができますが、爪の状態(痛みがないなど)を確認しながら試すようにしてください。
皮膚トラブルの症状を軽くするための身体の洗い方など、基本的なスキンケア方法を紹介しました。洗い方は習慣や癖をちょっと意識するだけで肌への負担を抑えることができます。ここで紹介した方法を参考に、いつものケア方法を見直し、できることから取り入れてみましょう。スキンケアの習慣のない方は、まずは習慣にすることから始めます。リンパ腫の治療中に気になる皮膚や爪の変化がみられたら、自己判断せずに早めに医師、薬剤師、看護師にご相談ください。
多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。
質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。
リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。
治療中に生じる副作用について解説するとともに、患者さん自身でできる予防法、症状を和らげるための対策について詳しく解説します。
病気を取り巻く問題である仕事・治療費・暮らしに焦点をあてて、患者さんの生活の身の回りのアドバイスをします。
治療をスムーズに進めるためのポイントやヒントとなる情報をリンパ腫治療のエキスパートよりお伝えします。
ご家族のかたへ
監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長 兼 臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生
大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。
リンパ腫治療中に起こる皮膚障害の大半はゆっくり経過するもので、
あまり心配はいりません。しかしごくごく稀ですが「スティーブン
ス・ジョンソン症候群」といって、生命にかかわることも起こりうる
状態が発生することがあります。高熱、目の充血、まぶたのはれ、目
が開けづらい、くちびるや陰部のただれ、排尿・ 排便時の痛み、のど
の痛み、皮膚の広い範囲が赤くなるというような状況が見られたとき
には、放置せず直ぐに医師、薬剤師、看護師にご相談ください。